青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『ツバキ文具店』 小川糸 幻冬舎

 

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 鎌倉にある小さな文房具屋、ツバキ文具店。現在の店主は雨宮鳩子、通称ポッポちゃん。先代の祖母から引き継いだ店。もうひとつ引き継いだ家業、それは手紙の代書屋だった。絶縁状、お悔やみ状、借金の断り状、恋文等々。その内容、相手によって筆記具、紙質まで考える。たとえば、弔意の言葉はふだんよりずっと薄い墨でしたためる理由は、悲しみのあまり硯に涙が落ちて薄まってしまった証というように。ガラスペン、万年筆、毛筆と状況によって使い分ける。手紙の送り手の心境、それを受け取る側の気持ちを想像し、もっとも気持ちが届くように細心の気配りを心がける。メールという、瞬時にして相手に気持ちを伝えることができる便利な仕組みを手にした我々の生活に、手紙を送るという彩りを付加して、手紙を投函してから相手に届くまでの数日間、あれこれ想像する気持ちの余裕が必要なのかもしれない。

鎌倉という街の雰囲気を絶妙に醸し出し、また鳩子がその周囲の人たちに次第に溶け込んでいく様子を見事に描いている。鳩子も心に傷を負って鎌倉に戻ってきた。周囲の人々に支えられながら、自分の将来にむけて気持ちを固めていく。特に隣人のバーバラ夫人との関係は微笑ましく、古き良き時代の日本を思い起こさせる。いい街だなぁ、鎌倉、住んでみたいと思う。そして大切な人に手紙を書きたくなる。言いたくて言えなかったこと、言いたいのに言えないことをゆっくり丁寧に書き綴りたくなる。

満足度4.8(5点満点)

直接本人に言えないことを、思い切って手紙に書いて贈ってみよう!送る手紙じゃなくて、贈る手紙を! 日々の生活に、もうひとつ彩りがふえるかもしれない!