青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

読書 小説

『マチネの終わりに』 平野啓一郎 毎日新聞出版

久しぶりに高尚な大人の恋愛小説に出会った。 途中、読むのをやめたくなるほど衝撃な事件が起きるが(ショックのあまり、実際しばらく作品から離脱した)、これほど胸に突き刺さった小説は他にない。 人生でたった一人の相手。使い古された言葉でいえば、「…

『ツバキ文具店』 小川糸 幻冬舎

鎌倉にある小さな文房具屋、ツバキ文具店。現在の店主は雨宮鳩子、通称ポッポちゃん。先代の祖母から引き継いだ店。もうひとつ引き継いだ家業、それは手紙の代書屋だった。絶縁状、お悔やみ状、借金の断り状、恋文等々。その内容、相手によって筆記具、紙質…

「暗幕のゲルニカ」 原田マハ 新潮社

この小説のおかげで、またひとつ絵画の知識が増えた。その絵画は現代アートの巨匠パブロ・ピカソの代表作「ゲルニカ」。この小説は20世紀と21世紀の二つの物語から成り立っている。 スペインの内戦から逃れピカソはパリに住んでいた。ドイツ・イタリアの…

『バラカ』 桐野夏生 集英社

ミカ、光、薔薇香と3つの名を持つ少女。日系ブラジル人夫婦のもとに、日本で生まれ、1歳半の頃、ドバイに移住する。父親より先にドバイに渡った母親とミカ。母親が男に騙され、母親は殺され、ミカは養子縁組を斡旋するブローカーに売られてしまう。ブローカ…

『朝が来る』  辻村深月 文藝春秋

中学生のひかりは、親、特に母親との折り合いが悪く、ごくごく普通に暮らす親を見下していた。親への反抗心から同級生と交際をはじめ、子どもを妊娠してしまう。妊娠に気づいたときには、中絶が可能な期間が1週間過ぎていた。親が選んだ解決方法は、養子縁組…

『太陽の棘』  原田マハ  文藝春秋

終戦直後の沖縄に在沖縄アメリカ軍の軍医として派遣されたエド。親に送ってもらった高級車ポインティアックで、同僚二人とはじめてドライブに出かける。道に迷って辿り着いたところは、誇り高き画家が集まってつくった芸術の街ニシムイだった。占領された側…

『ムーンナイト・ダイバー』 天童荒太  文藝春秋

彩瀬まるさんの「やがて海へと届く」に続いて東日本大震災関連の2冊目の小説。 東日本大震災の行方不明者を家族に抱える人たちが極秘に結成した会に依頼され、行方不明者の手掛かりとなる品物を海の底から引き揚げるために、月が明るい火曜日の深夜、瀬奈舟…

『神様のコドモ』  山田悠介  幻冬舎

神様が「人間スーツ」を着てハワイに旅行に行っている間、神様のコドモが、神様の代わりに人間世界の日本国を見守る話。退屈で仕方ない神様のコドモは、神様のコドモなりの考えで、ズルい人間・悪い人間を懲らしめながら、弱い人間や正直な人間を助ける。日…

『もしも俺たちが天使なら』  伊岡 瞬  幻冬舎

頭脳派詐欺師の谷川涼一は、詐欺に暴力と脅迫は絶対使わない。選ぶ対象は金持ち、その強欲さを逆手にとって金を巻き上げていた。一方、喧嘩がめっぽう強く、イケメンでセレブのヒモとして生きている松岡捷。そして、過去の傷を引きずった、バツイチの元刑事…

『夏を喪くす』  原田マハ  講談社文庫

4編の中編集。 「天国の蝿」 父親の借金のせいで大学をあきらめ、その父親のよって母との生活が守られる。家族の縁の強さ、そして絶えることのない血の繋がりを感じる作品。人生はみな平等というけれど、生まれた親によって・・・。切ない。 「ごめん」 夫…

『聖母』  秋吉理香子  双葉社

幼稚園児が被害者となる猟奇的殺人事件が連続して起こる。その事件の犯人は、剣道部に所属する高校生・真琴。しかし、犯人の真琴ですら、想像し得なかった事実が起こる。真琴の存在に警察が気づき始めたころ、ドラマはクライマックスを迎える。そして、読者…

『坂の途中の家』 角田光代 朝日新聞社

出産を機に7年勤めた会社を辞め、専業主婦になった里沙子。娘も2歳になり、順風満帆とはいえないまでも家族3人平凡に暮らしていた。そんな里沙子のもとに裁判所から1通の封書が届いた。六週間後に行われる刑事裁判の裁判員候補者に選ばれたという知らせ…

『乳房に蚊』 足立紳  幻冬舎

装丁に描かれた乳房に蚊が止まっている絵をみて、「こんな状況を実際に目にすることなんてないだろう」と思い手にした作品だが、内容はとてもありふれたもの。それなのに、途中で読むことをやめられない作品であった。なぜなのだろう?? 年収100万にも満…

『ガンルージュ』  月村了衛  文藝春秋

韓国の次期大統領とも言われている韓国の要人・白尚民(ペク・サンミン)が群馬県にある山荘『別荘御殿』から拉致された。犯人グループはキル・ホグン率いる韓国最精鋭特殊部隊「ソバンサ」。事件に巻き込まれ、祐太郎と麻衣は人質になってしまう。韓国と癒…

『株式会社タイムカプセル社 十年前からやってきた使者』  喜多川泰  ディスカバリー21

家庭を省みず、ひたすら仕事に専念していた新井英雄。自分の会社を倒産させてしまい、妻と娘にも家を出て行かれた。生活に窮するようになり、就活をはじめる。そして再就職したのが、株式会社タイムカプセル社。この会社は未来の自分に手紙を送ろうとする人…

『羊と鋼の森』  宮下奈都  文藝春秋

高校もないほどの北海道の小さな集落で育った外村は、森に囲まれ、何かを望むこともなく自然の一部として生きていた。偶然、学校のピアノを調律するためにやってきた板鳥の作業を見学して心が揺れた。「調律師になりたい」人生ではじめて感じた強い想いだっ…

『また、同じ夢を見ていた』  住野よる  双葉社

前作『君の膵臓を食べたい』で衝撃的なデビューを果たした住野よるさんの最新刊。デビュー作には、泣かされた。電車の中で読んでいて、涙が止まらず苦労した。 同級生より賢く、思ったことは何でも口にする小学生・小柳奈ノ花。その性格が災いして、学校には…

『やがて海へと届く』 彩瀬まる  講談社

彩瀬まるさんは、平凡な日常の小さなほころびを描く名手で、普通の生活の中で誰もが感じる喜びや科悲しみを独特の表現で物語を描いてきた。 地震の前日、一緒に住んでいた遠野君に、すみれは「ちょっと、息抜きにでかけてくる」と言ったまま、戻らないまま3…

『土漠の花』 月村了衛  幻冬舎

月村了衛さんといえば『機龍警察』シリーズが有名だし、デビュー作もこの作品。よってSF小説の大家というイメージだったが、『土漠の花』はそれまでの作品とは一線を画す。舞台はソマリア(実際に日本が自衛隊を海外にはじめて派遣したのもソマリアだった…

『生還者』 下村敦史  講談社

山岳ミステリー小説の傑作。 ヒマラヤ・カンチュンジェンガで大規模な雪崩が発生し、日本人登山者数名の遺体が発見された。その雪崩事故のたった2人の生還者・高瀬と東の証言が食い違う。どちらが正しいのか?閉ざされた雪山では他に事実を知るものはいない…

『尖閣ゲーム』  青木 俊  幻冬舎

どこまでが小説でどこまでが本当なのか? そのリアリティに驚嘆。 アメリカ軍基地の問題、尖閣諸島の領有権に揺れ動く沖縄。日本、中国、台湾が主張する尖閣諸島の領有権の言い分は、実際に冊封使録に依るところが多い。その冊封使録「羅漢」をめぐり、陰謀…

『天才』 石原慎太郎 幻冬舎

政敵だった石原慎太郎と田中角栄。なぜそんな関係の石原慎太郎さんが角栄を描いたのか?角栄の汚職事件の際、慎太郎さんは角栄を辞任に追い込んだひとりである。そんな慎太郎さんが角栄の一人称で、角栄の生涯を描く。 小学生か中学生の頃、ニュースでロッキ…

『年下のセンセイ』 中村航  幻冬舎

中村航さんが描く恋愛小説は、まさに青春真っ只中の年代に向けての作品が多い。この作品は、それよりももう少し上の世代にの年齢の恋愛を描いている。 華道のセンセイをしている透(20歳)、その生徒のみのり(28歳)。年の差8歳の恋愛物語。彼氏いない…

『Aではない君と』 薬丸岳  講談社

社会派ミステリーの第一人者・薬丸岳さん。間違いなく薬丸岳さんの代表作となる1冊。 薬丸岳さんの作品は、ほとんどの人間が経験することはないけれど、でもほとんどの人間が経験する可能性を大きくもつ出来事を描く作品が多いので、読後しばらくその思考か…

『ロマンシエ」 原田マハ  小学館

原田マハさんといえば、『楽園のカンヴァス』や『ジヴェルニーの食卓』のアートものの作品を好んで読んでいた。それもそのはず、原田マハさんは学芸員の資格をもち、あのニューヨーク近代美術館(MOMA)に勤務した経験もあるのだ。 『ロマンシエ』もある…