青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『バラカ』 桐野夏生 集英社

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ミカ、光、薔薇香と3つの名を持つ少女。日系ブラジル人夫婦のもとに、日本で生まれ、1歳半の頃、ドバイに移住する。父親より先にドバイに渡った母親とミカ。母親が男に騙され、母親は殺され、ミカは養子縁組を斡旋するブローカーに売られてしまう。ブローカーに扱われる子どもはすべてバラカと名付けられる。バラカとは、「神の恩寵」を意味する。バラカを200万円で養子に迎えたのは、出版社に勤め、40代未婚の木下沙羅だった。沙羅は法の眼をかいくぐり、自分が生んだ子どもとして届けをだす。沙羅は光と名付けた。沙羅は大学時代の同級生の川島雄祐の子を身ごもり、川島と結婚することになり、川島は光の義理の父親になる。沙羅は、懐かない光を次第に疎ましく思うようになり、一緒にドバイまで子どもを買いにいった田島優子に光を預ける。川島の仕事の関係で沙羅と川島は仙台に引っ越す。その数日後、東日本大震災が起きて、沙羅は行方不明に。ミソジニーの川島は悪魔に魂を売った根っからの悪人。結婚も木下家の財産目当てで、木下家の財産を受け継ぐ権利のある光を優子から奪って群馬に向かう。放射能の汚染が激しい地域で活動する「爺さん決死隊」と呼ばれた犬猫保護ボランティアが、犬を従えて暮らしていたバラカを発見し、親族がみつからないまま爺さん決死隊のひとり豊田が薔薇香と名付け、引き取って育てることになる。震災によって混乱する日本。甲状腺がんになった薔薇香を、原子力推進派グループと、政府に棄民扱いされていると不満を持つ被災地区のグループが奪いあい、薔薇香の人生が翻弄される。

桐野さんの小説の特徴かもしれないが、登場人物のなかで善人に数より、悪人の数の方が圧倒的に多い。その悪人も、そこらにいるような子悪党ではなく、骨の髄まで悪に染まった悪魔だ。一人の少女の自由を奪い、人権を無視した多くの大人たちの身勝手なエゴは、読んでいて、怒りが腹にたまる。微笑みを浮かべた仮面の下に、悪魔の形相が見える。震災から8年が経過した設定で書かれた物語だが、もしかするとこれが日本の近未来の姿かもしれないと思うほど、放射能に汚染された日本をリアルに描いている。

満足度4.0(5点満点)