青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『乳房に蚊』 足立紳  幻冬舎

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装丁に描かれた乳房に蚊が止まっている絵をみて、「こんな状況を実際に目にすることなんてないだろう」と思い手にした作品だが、内容はとてもありふれたもの。それなのに、途中で読むことをやめられない作品であった。なぜなのだろう??

年収100万にも満たないシナリオライターの夫が、妻のご機嫌をとり、なんとか妻とセックスをしようとする。セックスするために妻の顔色をうかがい、3日前から妻の機嫌をとる。それなのに、冷たく却下され、罵詈雑言を浴びせられる。性欲の捌け口として風俗に通う金もなく、エロビデオを見ながら自分で処理する。そしてそれを妻にも知られている情けない夫。夫としても、妻に欲情しているわけでなく、妻しか相手がいないだけのこと。

妻は、夫といるとお互いのためにはならないと思いながらも、どうしても夫を捨てきれない。夫は妻と離婚すればホームレスになるという恐怖から、別れを切り出されると妻にすがりつく。

「男としての誇りはないのかよ」と思いながらも、最後まで読んでしまうのは、他人には知られたくないから口には出さないけれど、男ならだれでも思っている男の本音を描いているからではないか。読んでいると、不思議と親近感が湧いてくる。と同時に男の女々しさを自覚する。

 満足度3.0(5点満点)

夫婦は、お互い言いたいことの何パーセントを口にしているのだろう。