『生還者』 下村敦史 講談社

 山岳ミステリー小説の傑作。

ヒマラヤ・カンチュンジェンガで大規模な雪崩が発生し、日本人登山者数名の遺体が発見された。その雪崩事故のたった２人の生還者・高瀬と東の証言が食い違う。どちらが正しいのか？閉ざされた雪山では他に事実を知るものはいない。

兄をこの雪崩で失った増田は、兄の遺品の中に故意に刃物で切られたザイルを発見し、兄が殺害された可能性を疑う。雑誌記者・恵利奈とともに真相解明に奔走する。すると４年前に起きた白馬山の雪崩事故とのつながりが見えてくる。東の証言以降、口を閉ざした高瀬が再度、証拠隠滅のためにカンチュンジェンガに登山するという情報を掴んだ恵利奈は増田とともに、高瀬を追ってカンチュンジェンガに向かう。そこで高瀬を見つけ、猛吹雪の中、高瀬を監視しながら行動を共にする。そのとき、増田はクレバスに落ちそうになり、高瀬に救助され、そこで驚愕の真実を知ることとなる。

何度も読者の予想を裏切る展開。最後のエピローグでは、両手を挙げてバンザイするしかない。自然に対する人間の儚さと、その自然に挑む人間の強さ！

満足度4.2（５点満点）

山に登ると、知らない人に気軽に挨拶できる。いつもの自分と違う自分に戸惑う。