青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『土漠の花』 月村了衛  幻冬舎

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月村了衛さんといえば『機龍警察』シリーズが有名だし、デビュー作もこの作品。よってSF小説の大家というイメージだったが、『土漠の花』はそれまでの作品とは一線を画す。舞台はソマリア(実際に日本が自衛隊を海外にはじめて派遣したのもソマリアだった)。ソマリアに派遣された自衛隊が、墜落したヘリの捜索に向かう。現場に到着した小部隊の元に、命を狙われた女性が駆け込んで来たことにより、いきなりソマリアの氏族間闘争に巻き込まれる。圧倒的な数的な不利の中、女性を護衛しながらの撤退を試みる。やらなければ、やられる。訓練を受けていても、人を殺した経験がないのが自衛隊。殺さざるを得ない状況の中、隊員は己の良心の呵責とも戦う。はじめはまとまりのなかった小部隊が、いくつもの困難を乗り越えるたびに仲間意識が強まり、しだいに強い絆で結ばれる。さらに自然の猛威、ハムシン(熱風砂嵐)にも行く手をさえぎられ、最後の大勝負に挑む。

これはあくまで小説だが、実際に起きていてもおかしくない。自衛隊が海外に派遣されるようになり、自衛隊には戦闘する気がなくても、相手国に戦いを挑まれたら、それも圧倒的かつ、数的不利なら、戦って相手を倒す以外に、己が助かる道はない。自衛隊は戦闘員ではないから、戦わず殺されようなんて、現場では絶対通らないはず。

最初からエンジン全開の物語は、一度も減速することなく最後まで、フル回転。よくぞここまで続けられたものだと感心する最高級のエンターテインメント小説!

 満足度4.8(5点満点)

 

自衛官であるまえに、俺はひとりの人間なんだ。人を殺した手で娘は抱けない。