青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『やがて海へと届く』 彩瀬まる  講談社

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彩瀬まるさんは、平凡な日常の小さなほころびを描く名手で、普通の生活の中で誰もが感じる喜びや科悲しみを独特の表現で物語を描いてきた。

地震の前日、一緒に住んでいた遠野君に、すみれは「ちょっと、息抜きにでかけてくる」と言ったまま、戻らないまま3年が経過する。そのすみれの死を悼む親友の湖谷と、すみれの彼氏だった遠野君の二人が、一番大切なものを失くした深い悲しみから立ち直り、これからの生活にすみれの思い出を共生させていくという「喪失と再生」が描かれている。

辛い思いをして死んだだろうすみれの死を忘れることは、死者をその場に置き去りにする行為だとして、いつまでも意識的にすみれと繋がっていようと思い悩む湖谷。一方、すみれと一緒に住んでいた場所から引っ越し、すみれと距離をとることを決意する遠野君。ふたりとも、すみれを大切に思う気持ちは変わらない。大切なものを失った喪失感から立ち直る方法も、必要とする時間も個人差があるのではないか。だから正解はないと思う。ただ、悲しみのどん底から立ち直ろうとする者に、この作品がなんらかの道しるべになって、やさしく寄り添ってくれると思える1冊である。

 彩瀬まるさんは、旅行中に東日本大震災被災している。そのことを書いた『暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出』出版されている。

満足度4.0(5点満点)

 

あなたが欠けたままなの。ずっと探してるのに、なにで埋めればいいのかわからないの。                    ・・・・本文より