青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

「暗幕のゲルニカ」 原田マハ 新潮社

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この小説のおかげで、またひとつ絵画の知識が増えた。その絵画は現代アートの巨匠パブロ・ピカソの代表作「ゲルニカ」。この小説は20世紀と21世紀の二つの物語から成り立っている。

スペインの内戦から逃れピカソはパリに住んでいた。ドイツ・イタリアのファシスト政権の支援をうけた反乱軍フランコ将軍の勢いはまし、スペイン共和国軍は追い込まれたいた。その最中、ナチス・ドイツの航空部隊がスペイン・バスク地方の小都市ゲルニカに人類史上初となる無差別空爆をしかけた。その事実を知ったピカソは多大な衝撃を受ける。1937年パリ万国博覧会のスペイン館の目玉となる大きな絵画の製作を依頼されていたピカソが、「反戦」というメッセージを世界に送るためにために描かれたのが「ゲルニカ」だった。武器を持たず、筆一本でファシズムと戦った。パリ万博が終わると、反戦の「ゲルニカ」はヨーロッパ各地を廻り、スペイに真の民主主義が戻るまでMoMA(ニューヨーク近代美術館)が預かるという条件のもとアメリカへ渡る。そしてスペインに民主主義がもたらされた42年後、スペインに返還され、レイナ・ソフィア芸術センターに収蔵されることになった。「ゲルニカ」は、誕生からずっと戦争に荒波に揉まれ続けた。

八神瑶子はMoMAに勤務する学芸員。2001年9月11日、アメリカ同時多発テロで夫を亡くしていた。同時多発テロに報復するためにアメリカは、アフガニスタン空爆、そして今度は2003年3月19日アメリカを中心とした連合軍がイラクを攻撃する。この悪の連鎖を断ち切りたいという想いから、瑶子は「ピカソの戦争」というタイトルの展覧会を企画する。その展覧会には、反戦のシンボル「ゲルニカ」が必要不可欠な作品であった。レイナ・ソフィア芸術センター所蔵されて以降、作品のコンディションを理由に一度たりとも動かしたことがない「ゲルニカ」。実はコンディションの問題だけでなく、反戦を掲げた作品としてテログループに狙われていた。多くの人たちの協力を得て、実現を目前にした搬送前夜、瑶子はテロ組織に拉致される。果たして、瑶子と「ゲルニカ」の運命はいかに・・・。

絵画について無知だった。「楽園のカンヴァス」や「ジヴェルニーの食卓」などの絵画シリーズで、多くの巨匠や作品を知ることができ、絵画に興味を持つことができた。特に作品の歴史的背景がわかるのが何より楽しい。絵画は高尚で難しいというイメージが払拭され、親しみを持てるようになった。瑶子の熱い想いをもって、一生懸命がんばる姿に心が熱くなる。ピカソの才能は、身の回りの人たちの心を惹きつけ、自然と自分の思うままに存在させる。やっぱり偉大な芸術家はどこかわがままなのかな。

実はピカソの作品は苦手かも。

満足度4.2(5点満点)