青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『ムーンナイト・ダイバー』 天童荒太  文藝春秋

f:id:bluetoone:20160320005306j:plain

彩瀬まるさんの「やがて海へと届く」に続いて東日本大震災関連の2冊目の小説。

東日本大震災の行方不明者を家族に抱える人たちが極秘に結成した会に依頼され、行方不明者の手掛かりとなる品物を海の底から引き揚げるために、月が明るい火曜日の深夜、瀬奈舟作は海に潜る。放射能の汚染が懸念され、立ち入り禁止となっている海である。舟作がそんな危険な海に潜る理由は、自分の身代わりで、兄が亡くなったという負い目から、生きている自分ができるせめてもの償いのため。ある日、会の代表者だけが舟作と接触し、他の会員には舟作の情報は教えないとのルールを破って、会員の女性が「夫の指輪だけは探さないで欲しい」と直接舟作に訴える。女性の訴えは、入会していながらも、指輪を見つけるなという矛盾をはらんでおり、舟作は次第にその指輪を意図的に探すようになる。舟作はその指輪を見つけることができるのか?そして、その女性会員の抱える本心はどこにあるのか?

行方不明者の生存を願いながらも、現実的な日々の生活の中で、その生存を願っているのか、亡くなった証が欲しいのか、わからなくなるのも当然に想える。あの災害が起きる前に思い描いていた未来像と、災害が起きたあとの今、そして未来とのギャップに、心が折れそうになりながらも、必死に現実の世界で生きていかなければならないのだから。簡単ではないが、今でも災害によって想い苦しんでいる人たちが、少しでも楽になるようにと祈りたくなる作品。

満足度4.2(5点満点)