青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『羊と鋼の森』  宮下奈都  文藝春秋

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高校もないほどの北海道の小さな集落で育った外村は、森に囲まれ、何かを望むこともなく自然の一部として生きていた。偶然、学校のピアノを調律するためにやってきた板鳥の作業を見学して心が揺れた。「調律師になりたい」人生ではじめて感じた強い想いだった。2年間、専門学校に通い、板鳥がつとめている楽器店に入社すると、調律師としての道を歩き始める。自分の能力のなさを自覚し、そして顧客からの要望で担当を替わったり、なかなか自信が持てず、先輩の柳や秋野、そして板鳥のアドバイスを熱心に聞き、メモを取る。柳の顧客にピアノを弾く双子の姉妹がおり、その双子の姉妹と出会い、関係を深めていくことによって、外村の調律師としての想い、目標がきまり、人としても成長していく。

『羊と鋼の森』というタイトルが秀逸。タイトルがピアノを指してるなんて思いも及ばなかった。森が生じる音楽を聴いて育った外村が、その森が生じた音楽を礎にして、羊と鋼の森の音階を調律する。なんて素敵な融合なんだろう。才能とは潜在能力ではなくて、どれだけひとつのことを好きになれるかであるといい、だから誰でも平等であり、人生の努力に無駄なことはなく、ひとつひとつ小さな努力を積み上げた先に、また違う世界が待っていると思わせてくれる作品。

満足度4.5点(5点満点)

ピアノがびゅんと成長する瞬間。いや、ひとりの人間が成長する瞬間             本文より