青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『朝が来る』  辻村深月 文藝春秋

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中学生のひかりは、親、特に母親との折り合いが悪く、ごくごく普通に暮らす親を見下していた。親への反抗心から同級生と交際をはじめ、子どもを妊娠してしまう。妊娠に気づいたときには、中絶が可能な期間が1週間過ぎていた。親が選んだ解決方法は、養子縁組を斡旋する団体「ベビーバトン」に頼ることだった。教師をしている両親は世間体を気にして、お腹が大きくなる前に浅見が代表を務める「ベビーバトン」の寮がある広島に送り出す。無事に出産し、子どもを養子に出すことになった神奈川に住む栗原夫婦に対面し、心からの感謝の意を表し、生んだばかりの子どもに対する愛着を捨てされないまま栃木の実家に戻る。環境は以前の生活に戻ったものの、自分自身が既に変わってしまっていることに気づく。高校生になったころ、家出を決意して、広島で世話になった「ベビーバトン」の浅見のところで望まれない子どもを妊娠した妊婦の世話をするようになる。そこで子どもを養子にだした栗原夫婦の住所を盗みみる。「ベビーバトン」が閉鎖されることになり、栗原の紹介で新聞配達の職に就く。その寮でトモカと知り合うが、トモカ借金の連帯保証人となった偽の借用書を持った取立人が現れ、横浜に逃げる。横浜まで取立人に追われ、勤めていた会社の金を盗み、本当の犯罪者として逃げることになる。最後に思いついたのは、子どもを託した栗原夫婦だった。自宅を訪ね、「子ども返すか、金をだすか」と迫るが、あまりにも風貌が変わったせいで、息子の本当の母親だと思ってもらうことすらできずに失敗に終わる。行き場を失くして、自殺を考えながら、街で雨に打たれていると、「やっと、見つけた」と後ろからしがみつく人間が・・・。

たった一度の失敗が、人生を変えてしまう。その挫折から立ち直る人も、もちろんいるが、そこから負のスパイラルに嵌るとなかなか軌道修正する術がないことがよくわかった。辛い不妊治療から脱して、方法はともかく子どもを授かったときに、暗い闇が終わり、「朝が来る」と表現している。このタイトルからして、著者にとっての、この作品の主人公は栗原夫婦、特に栗原佐都子かもしれないが、僕にとってのこの作品の主人公はひかりだった。ひかりが主人公なら、いったいどんなタイトルがついたのだろうか??

満足度4.2(5点満点)