青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『夏を喪くす』  原田マハ  講談社文庫

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 4編の中編集。

「天国の蝿」

父親の借金のせいで大学をあきらめ、その父親のよって母との生活が守られる。家族の縁の強さ、そして絶えることのない血の繋がりを感じる作品。人生はみな平等というけれど、生まれた親によって・・・。切ない。

 

「ごめん」

夫が事故に遭ったとき、妻は彼氏と海外に旅行していた。そして夫は植物人間になってしまう。夫の持ち物から見覚えのない通帳を見つけ定期的に振り込んでいる事実を知る。引き出した支店がある高知に行き、夫の隠し事を突き止める。隠し事のない夫婦なんてないし、でも、その事実を知りたいと思う夫婦もいないだろう。嘘をつくなら、墓場まで持っていく覚悟が必要だ。立つ鳥跡を濁さず。そもそも夫婦ってなんなんだろう。

 

「夏を喪くす」

既婚者でありながら、仕事も持ち、愛人を持つ。相手にバレなければいい、そんな生活を謳歌していた矢先、夫が愛人に送ったメールが転送され、更に乳ガンが見つかる。ガンの進行は早く、すでに乳房を切除するしかない。愛人との時間を大切にして、乳房の切除を諦め短い命を楽しむか、乳房を切除して愛人と別れるかの選択に迫られる。そんなときこそ頼りになるのは、夫なのに。アリとキリギリスの話を思い出した。

 

「最後の晩餐」

9.11以降連絡が取れなくなった友達。同じ男性を好きになって、気まずくわかれたままだった。ルームシェアしていたアパートが転売されることになり、荷物の整理にニューヨーク行く。投函されないままの、自分宛の展覧会の招待状をみつけ、最後の場面を振り返る。果たされなかった、最後の晩餐、友達がいつ帰ってきてもいいように、大好きだったポトフをつくる。きっと9.11のあと、アメリカではこんな悲しい物語があちこちで語られていたのだろう。

満足度3.8(5点満点)