青之丞(あおのすけ)の旅と読書日記

旅の途中で読んだ本の紹介と、撮った写真にまつわる歴史

『ロマンシエ」 原田マハ  小学館

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原田マハさんといえば、『楽園のカンヴァス』や『ジヴェルニーの食卓』のアートものの作品を好んで読んでいた。それもそのはず、原田マハさんは学芸員の資格をもち、あのニューヨーク近代美術館(MOMA)に勤務した経験もあるのだ。

『ロマンシエ』もある意味で、アートものいえるかもしれないが、前述2点の作品との趣がちがう。有名な絵画にまつわる謎を解いたり、有名な画家は登場人物にはいない。主人公は東京郊外にある美大に通う美智之輔。性別は男でも、女のメンタルを持つ。大学の卒業制作が、大学創立五十周年記念の特別賞「ボザール賞」を受賞し、パリの美術学校に留学することになる。

有名な「アトリエ・デ・ボザール」に入学できるものと思っていたのに、美智之輔が入学したのは個人経営の画塾「ボーゴス」。パリに来ることによって、離ればなれになった高瀬君を想いながらも、アルバイトにいそしみ、日々の生活を送る。偶然にも日本の有名作家ハルさんこと羽生光晴と出会うことにより、思わぬ展開にむかう。百年以上の歴史を持つリトグラフ工房の「idem」を住込みで手伝うことになる。日本で展覧会制作会社に就職した高瀬君がパリに訪れ再会するころには、美智之輔は立派なパリの住民になっていた。高瀬君に自分の想いを告げることができないでいる美智之輔は、ハルさんの秘密を知り、ハルさんを助けようと決意する。しかし、ビザの延長のために試みた行動は失敗に終わり、日本に帰るしかないと失意のどん底に落ち込む。美智之輔の将来は、高瀬君への想いは、ハルさんは・・・・・。

全体的に軽いタッチの文章だが、いかにも芸術の街パリという雰囲気を漂わす。読んでいると、どうにかして仲間に入りたくなるほどの心の温かい登場人物に惹かれていく。壁にぶつかって悩んだり、将来の目標が見つからない人には、至極の1冊となるだろう。

満足度3.0(5点満点)

 

 『ステータス、地位、そんなものはいらない。自分が夢中になれるものがあれば幸せなんだ!』